京都に咲く一輪の薔薇(ミュリエル・バルベリ)2

 大昔の日本、伊勢のあたり、大海に面した入江のほとりに薬師の女が住んでおりました。薬草をよく知るこの女は、誰かが苦しみをやわらげてほしいとやってくれば、気前よく薬を分け与えました。しかし、神が与えた宿命でしょうか、どうしようもないものだったのでしょうか、当の女薬師は、常に恐ろしいばかりの痛みに苦しめられていました。ある日、女の調合した撫子のお茶で病気が治った貴人が彼女に問いました。「なぜ、おまえはその能力を自分が楽になるために使わないのか」女は答えました。「そうしたら私のこの力はなくなり、次の患者を治すことができなくなります」「自分が痛みに苦しむことなく生きられるなら、他人の苦しみなどどうでもいいではないか」と貴人はさらに問いました。女は笑い、庭に出ると、血のように赤い撫子の花を腕いっぱいに摘み取りました。そしてその花束を貴人に差し出して言ったのです。 「そうなったら、私はこうして花を誰かに差し出すこともできなくなってしまうでしょう」